自分の親の介護は、プロでもできない

川内 そもそも、介護職になって最初のうちに教えられるのが「介護職には、自分の親の介護はできない」ということなんですよ。

―― そうなんですか?

川内 「自分の親こそ、自分が培ってきた介護のスキルでケアをしたいと思う気持ちを、どこかに持っているかもしれない。だけど、それは絶対やってはならない」と。

―― なぜなのでしょう。

川内 なぜなら、絶対に「いいケア」ができないから。そして、できてない自分を自分で責めるから、です。なぜできないかといえば、これまた、プロであっても必ず「母ちゃん、しっかりしてくれよ」という、皆さんと同じ気持ちが出るから。

―― 「僕の安全基地が壊れていく」という、恐怖や怒りが、分かっていても抑えられない。

川内 そう。そしてそれが、「僕はプロとして何をやっているんだろう」という敗北感となって、さらに自分を苛むわけです。「一番やっちゃダメなことを分かっていて、やってしまったね、プロなのに」ということになる。それぐらい、自分の親の介護は難しいことなんですね。

※本稿は、『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP社)の一部を再編集したものです。

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親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(著:山中浩之、川内潤/日経BP社)

「親と距離を取るから、介護はうまくいく」。一見、親不孝と思われそうなスタンスが、介護する側の会社員や家族をそしてなにより介護される親をラクにしていく。電通、ブリヂストン、コマツなど大手企業の介護相談で活躍中の川内潤さん(NPO法人となりのかいご代表)のアドバイスの元、遠距離の「親不孝介護」に挑んだ編集者の5年間の実録。親の介護が始まる前に、これを知っておくのと知らないのとでは、働き方にも介護のクオリティにも大きな差が付きます。公的支援を受けるべきかどうかのチェックシート、部下の介護離職を止めるための想定問答集も掲載!