(撮影:本社写真部・奥西義和)
突然受けた夫の末期がん宣告――。想像もしていなかった人生のターニングポイントを迎えた女性たちの手記を、作家の唯川恵さんはどう読んだのでしょうか(構成=篠藤ゆり 撮影=本社写真部・奥西義和)

共通の敵と闘うことで、一致団結できる

今回、小説とは違う、手記ならではの感動を味わいたいと、とても楽しみにしていました。半面、原稿を手にするまでは、手記という特性上、少し愚痴っぽい作品が多くなるかもしれないなと危惧していたのも事実です。ところがいざ読んでみると、3篇とも読後感がとてもさわやか。それぞれ、自分の身に起きた出来事を冷静に見つめて書いた、いい作品だなと感じました。

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まず、「がん闘病は、二人三脚。夫と食べたおにぎりの味を忘れない」の竹中伊都子さん。ようやく夫婦ふたりの時間が始まるというときに夫の病気がわかり、さぞかしおつらかっただろうと思います。

伴侶が突然亡くなってしまう場合、心の準備ができませんから、感謝の言葉を伝えるタイミングを逸してしまうことが多いもの。でも竹中さんの場合は、そう遠くない先にお別れのときが来ることがわかっていたからこそ、お互いに深く向き合い、3年間という濃密な時間を過ごすことができたのではないでしょうか。

ともに生活をしていると、相手のイヤなところが目につく時期もあるし、気持ちがすれ違うこともあるはず。人間は煩悩の塊なので、ともすれば「愛し合って一緒になった」というシンプルな初心を忘れがちです。でも、病という共通の敵と闘うことで、一致団結できる。つらいけれど、ふたりで最期まで一緒にがんばったという充実感も生まれたのでしょう。