岩佐 母の場合は、たとえば着替えさせようとしたら怒って暴れたり。でもよく考えると、母にとってはその部屋が寒かったんですね。困った行動を起こす理由が徐々に推測できるようになりました。
長谷川 そういう細やかな接し方ができるのは、実の娘さんだからかもしれないですね。ぜひお伝えしておきたいのは、怒りっぽい、暴力をふるうといった行動は、薬でコントロールできるということ。たとえばメマリーという薬を飲むと、攻撃的になって困っていた患者さんでも穏やかになります。
岩佐 母の場合は使いませんでしたが、そういう薬があると知っていれば安心ですね。
長谷川 接し方も非常に重要です。身内の方には、「今日は何曜日かわかる?」「私が誰だかわかる?」などと、試すようなことを言わないでいただきたい。本人が一番不安を感じているのに、いっそうストレスを与えることになります。
逆に、「今日は火曜日だね」「次女の××だよ。久しぶり」と情報を伝えれば、安心につながって会話も生まれるのです。
岩佐 私も当初はコミュニケーションがうまく取れない時がありましたが、どう接したら母が機嫌よくしてくれるのかが理解できてからは、介護がグッとラクになりました。
<後編につづく>
岩佐まり
フリーアナウンサー
フリーアナウンサー、社会福祉士。55歳の若さで若年性アルツハイマー型認知症と診断された母を、二十歳のころから19年に渡り在宅介護している。現在は、要介護5となった母と夫との3人暮らし。 在宅介護を支援するための個人事務所として「陽だまりオフィス」を立ち上げ、介護に関する相談の受け付けや、全国での講演会活動を行う。2009年よりブログ「若年性アルツハイマーの母と生きる」を開始、同じ介護で苦しむ人の共感を呼び月間総アクセス数300万PVを超える人気ブログとなる。 その後数々のテレビ番組でも特集され話題となり、2021年、TBSドキュメンタリー映画祭にて「お母ちゃんが私の名前を忘れた日 ~若年性アルツハイマーの母と生きる~」が上映される。著書に『若年性アルツハイマーの母と生きる』(2015,KADOKAWAメディアファクトリー)
長谷川嘉哉
医療法人ブレイングループ理事長、医学博士
1966年愛知県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。認知症専門外来および在宅医療の実践のため岐阜県土岐市で開業。在宅生活を医療・介護・福祉の分野で支えるサービスを展開している。著書に『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た! どうする? どうなる?』『認知症専門医が教える!脳の老化を止めたければ 歯を守りなさい!』など