兄たちが、次々と戦争や病で亡くなって。「6男の自分が、まさか家を継ぐとは思わなかったよ」(写真提供:すばる舎)

国道から自宅までの道は10分ほどの距離だが、人工林の杉が高く伸びて、道が暗くなっている。

道を明るくしたい、日当たりを良くしたいと、これまで道沿いの大木を何百本と伐ってきた。文字通り、地域を明るくしてきた。

鈴木さんは林業家として、実業世界にいた。80代まで現役だった。

ぱっと見、70代くらいに見える。言葉のやりとりも、間髪入れずにスピーディだ。

ずっと経営者として人の上に立ち、事業を動かしてきた人ならではのキビキビした感じと、鷹揚にかまえた雰囲気がある。

『過疎の山里にいる普通なのに普通じゃないすごい90代』(著:池谷啓/すばる舎)

17歳から山仕事を始め、やがて会社をおこす

鈴木さんの住まいは、春野町の領家という山の中にある。国道から細い道をくねくねと走って10分くらいのところだ。

住まいの横を中山川という清流が流れている。ホタルも出る。近くに家はほとんどない。途中にはバーベキューを楽しむキャンプ場がある。

この地で1930年に生まれ、育った。今年で92歳。6男で、もうこれが末っ子ということで、「末吉」と名付けられた。きょうだいは8人(男6人、女2人)。末吉さん以外はすでに他界している。

14歳で国民学校を出ると、すぐに働き始めた。当時、その上の学校へは、土地持ちの財産家しか行かなかった。