●俵山温泉(山口県長門市俵山)
昭和41年発刊の『霊泉たわらやま』を要約すると、「延喜16年(916)、一人の猟師が木の枝の一匹の白ザルに向かい、自慢の弓を引き矢を射った。手応えがあったが白ザルは直ちに逃げ去った。
十数日後、猟師は再び白ザルを見付けたが、サルは谷川の水を背にかぶり、傷を洗い続けていた。猟師は今度こそはと力一杯弓を引きしぼって矢を射った。しかし、サルのいた辺りには白い霧が濛々(もうもう)と立ちこめ、サルの行方も矢も見えなくなった。ふと見れば十数メートル先を、雲の上に何度か拝んだことのある能満寺の薬師如来が紫の光を放っちながら悠々と深山に去っていった。
猟師がサルのいた谷川に降りて行くと、谷川の水は温かく、その温かい水は大きい岩の割れ目から出ていた。手で掬(すく)って飲んでみると実に良い味で、身体全体に力が漲(みなぎ)るようであった。
猟師は急いで帰り、能満寺の和尚にこのことを話すと『これこそ弘法大師が薬師如来をお作りになって約束せられた衆生済度(しゅじょうさいど)の大事業の表れである』と答え、猟師に罪多い生活を止めさせ、温泉の浴場を開設して病人の治療に当たるよう諭した。猟師は村人をさそって山林を切り開き、浴場を作ったのである」となる。これが俵山温泉の発見由来とされる。
※本稿は、『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える 心と体に効く温泉』(中央新書ラクレ)の一部を再編集したものです。