夫はなんとしても左半身の機能を回復させたかったのだろう。ひたすらお金と時間をつぎ込んだ。私が専業主婦なら、怒鳴り合いの喧嘩になっていたはずだ。けれど、私はリハビリの効果も、費用についても一切聞かない。不自由な体でもなお定年まで働いたのだ。退職金をどう使おうが、夫の自由だ。
私は私で、長く休みが取れる時は、実母を誘って子どものいる京都へ旅行した。夫の食事は、5日分くらい作り置きして、冷蔵庫に入れておく。夫も1週間くらいなら、自分の食べたいものを近所のスーパーに買いに行くなどして、一人で過ごせるようになっていた。
そんな生活が6年続いた後、私も退職。再び大学へ通ってヴィゴツキーの著書を読んだり、フラダンス教室に通ったり、地方活性化のためにつくられた組合でどぶろくづくりをしたり、思う存分楽しんでいる。そうできるのも、私には仕事があったからだ。夫の介護のために仕事を辞めなくて本当によかったとつくづく思う。
夫は現在も大きな病気はせず、毎日読書、語学学習、近所の散歩を欠かさない。さすがに遠方へ行くことはないが、在来線に乗って週1回、整骨院や書店に出かけている。年齢とともに、左半身の拘縮(こうしゅく)が進み、体がくの字に曲がって歩くスピードもかなり落ちたが、健常な後期高齢者とあまり変わらないだろう。
当時は、寝たきりの状態になるのではないか、車椅子でなければ移動できないのではないかと危惧したが、本人の意志の強さでここまで回復した。今後どこまで自宅で過ごせるのか、ものは試しで可能な限り思う通りさせてやりたいと思う今日この頃である。