視点の変え方1「正しい医学的情報を知る」
私が外来でよく経験するのは、「医療的な誤解」によって後悔が生じている点です。
たとえば「私が病気に気づいてあげられなかった。それで、手遅れのがんになってしまった」という人がいます。これに対しては、「医療者でもわからないときがあります。決してあなたのせいではありませんよ」とお伝えします。
また「最後に鎮静を選択した。そのせいで死を早めてしまった」という人もいます。その人には「研究でも明らかになっていますが、鎮静で死が早まることはありません。あなたの大事な人は、鎮静によって安らかに旅立てたのだと思います。正しい選択でしたよ」とお話しします。
こういうケースもありました。「モルヒネを使ったことがよくなかった。それでおかしくなり、普通の会話ができなくなってしまった。モルヒネを使わなければよかった」
これに対しては、「あなたの大事な人は、おそらくせん妄という精神症状が起こったと思われます。モルヒネもせん妄を起こす要因にはなりえますが、モルヒネは痛みを取るための大切な薬です。モルヒネの使用は正しい選択でしたよ」とお伝えします。
せん妄は終末期においてさまざまな要因が重なって起こります。もし、痛みをほうっておくと、痛みが原因でさらにひどいせん妄を起こすことが多い。ですから、患者さんにとってはモルヒネを使っても痛みを取るメリットのほうが大きいのです。この患者さんに、モルヒネを使ったことは医療的に間違った選択ではありません。
これらの私の返答は、すべて医療的事実に基づく事実です。
このように、医学的な誤解が遺族の後悔につながっている場合、私はまず、正しい医学的事実をお伝えし、その誤解を解くように心がけています。遺族の方は、医学的な知識を得ることで視点が変わり、後悔の気持ちが変化していきます。この結果、長年の苦しみが楽になったという方も多くいらっしゃいます。