いずれ「配慮が足りない」と文句を言い出すのではないか

Eさんは、自分が契約社員と同じ仕事をさせられたことに耐えられなかったようだが、直属の上司によると、契約社員よりも文書作成に時間がかかるということだった。そのため、1日にこなせる仕事量が契約社員よりも少なく、一部の契約社員から不満の声があがっていたらしい。

このような状況に直面しても、Eさんは自分が悪いとは思わなかったし、思いたくなかったからこそ、騒ぎ立てたのだろう。

Eさんの訴えを聞き入れて、直属の上司を異動させるとか、本人をもとの部署に戻すとかいう措置を取ったら、果たしておとなしくなるだろうか。責任転嫁が成功し、自分の要求が聞き入れられたのだから、その直後はおとなしくしているかもしれない。

しかし、静かにしているのは少しの間だけで、いずれは「こんなストレスのかかる仕事をさせるなんて配慮が足りない」と文句を言い出すのではないかと私は危惧する。

※本稿は、『自己正当化という病』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


自己正当化という病』(著:片田珠美/祥伝社新書)

うまくいかないことがあるたびに「私は悪くない」と主張し、他人や環境のせいにする。やがて、周囲から白い目で見られるようになり、自分を取り巻く状況が次第に悪化していく……。このような「自己正当化という病」が蔓延している。精神科医として長年臨床に携わってきた著者が「自分が悪いとは思わない人」の思考回路と精神構造を分析。豊富な具体例を紹介しながら、根底に潜む強い自己愛、彼らを生み出してしまった社会的な背景を解剖する。この「病」の深刻さに読者の方が一刻も早く気づき、わが身を守れるように――。