「あくまでも自分は現在の年金制度の被害者」

このような選択をせざるを得ないのは、年金支給開始年齢がどんどん上がった結果、定年を迎える年齢と年金を満額受給できるようになる年齢の間に開きがあるからだ。その間、生活費をどうやって稼ぐかという問題に誰もがぶつかる。

なかには、面談の際に「年金をもらえないから、仕方なく会社に残っているだけ。給料を大幅に減らされた割に仕事が多くて、やってられない。本当に割を食っていると思う」と不満をぶつけた男性もいる。

この男性のように、あくまでも自分は現在の年金制度の被害者というスタンスだと、定年後再雇用という自分の立場を受け入れて、与えられた仕事をこなすのは難しい。

当然、仕事に身が入らず、不満を募らせ、愚痴ばかりこぼすことになりやすい。もちろん、そんな自分が悪いとは一切思わない。結果的に、周囲との摩擦も生じやすく、さらに仕事へのモチベーションが下がるという悪循環に陥りがちだ。

こういう方が被害者意識を抱く理由もわからなくはない。だが、その塊のようになってしまうと、結局自分が損をする。うまくいかない一因に、自分の立場を受け入れられないこともあるのではないだろうか。

※本稿は、『自己正当化という病』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。


自己正当化という病』(著:片田珠美/祥伝社新書)

うまくいかないことがあるたびに「私は悪くない」と主張し、他人や環境のせいにする。やがて、周囲から白い目で見られるようになり、自分を取り巻く状況が次第に悪化していく……。このような「自己正当化という病」が蔓延している。精神科医として長年臨床に携わってきた著者が「自分が悪いとは思わない人」の思考回路と精神構造を分析。豊富な具体例を紹介しながら、根底に潜む強い自己愛、彼らを生み出してしまった社会的な背景を解剖する。この「病」の深刻さに読者の方が一刻も早く気づき、わが身を守れるように――。