善も悪もそのまま剥き出しになっていく

現在の八王子のアトリエに移ったのは去年です。普段、僕が登山のトレーニングをするのが高尾山なので、高尾山が近いところ、ということで、八王子にしました。ここは裏山を散歩して戻ってくるあいだ、ほとんど人に会わないまま過ごせる。もちろんすれ違うこともあるけど、1日ほんの数人だからソーシャルディスタンシングも完璧です。

環境はとても重要です。昔住んでいた東陽町(東京都江東区)も近くに木場公園があって自然が豊富でした。朝まで飲んで、帰りに木場公園でお年寄りに交じってラジオ体操をしたことも(笑)。その後仕事場に戻って寝る。夕方になったらまた起きて飲みに行くという毎日でした。

僕は俳句をやるので、季節感を大切にしたい。自然がそばにあるということで、精神的にも肉体的にも健康でいられるのかな、と思います。

だったらいっそ軽井沢にでも移住しようか、なんて考えたことはありますが、やはり東京に軸足を置いておくことも大事かな、と。ここ八王子なら、東京の下町の延長線上に自分はいる、と感じることができます。軽井沢は......90歳になったらね。90歳まで生きていたらの話ですけど。(笑)

僕にとって門前仲町のあたりが大衆酒場の原点でしょうね。その中心が魚三酒場。今も酒飲みの憧れの店なんじゃないかな。コロナの後もそういう飾り気のない、昭和の大衆酒場は残っていくはず。もちろん形は多少変わると思うけれど、昭和酒場のエッセンスは継承されていくでしょう。コロナが終息したら、全国のそんな酒場に応援に行きたいです。

「東京アラート」も解除されました。これで、都内のロケはやりやすくなるでしょうね。地方に行くのはまだちょっと難しいかもしれませんが。

そのあたりは臨機応変というか、焦らず、状況に合わせてやっていこうと思います。基本、なるようにしかならんだろ、というところもあるのと、自分が焦って人を思いやるゆとりすらなくしてしまったら、それこそ元も子もありません。

ニュースを見ていると、コロナのせいで、人間の本質がどんどん暴かれていくような気がします。日常では見えなかった、はらわたの如きものが、全部ひっくり返ってさらけ出されてしまった感じです。善も悪もそのまま剥き出しになっていく今の状況は、70年前にカミュが『ペスト』で描いた世界とそっくりです。

だからこそ、逆に居直って、人間として俺はここで一つ成長できるぜ、みたいな生き方を選んだっていいと思うんですよ。今だからこそ、一回り大きな人間になってみろよ、と。

コロナで、今までと違った異常な日常をみんな送っていると思いますが、それが人間の存在に強いインパクトを与えているのであれば、おおらかな気持ちを持って弱い存在──弱いというのは自分も含めてね──を愛し、精神的に大きな人間になっていけばいい、と思いますね。