「どんなに落ち込んでも、次の日には舞台に立たなければならない。応援してくれるファンの方たちと、信頼してついてきてくれている組の仲間がいるから、途中で投げ出すことはできませんでした」

さまざまな「声」のなか最後まで走りきって

そうやって入団した歌劇団では、今度は3年目という早い時期に、新人公演の主役をいただくことになりました。その頃は先々のことまで考えられず、目の前の目標に向かってただ懸命に稽古をしていましたね。

稽古場で先輩方を見て、自分には何が足りないんだろうと毎日考えて。演出家の先生の言ったことは、自分に向けたものも、他人に向けたものもすべてメモしていました。必死の形相すぎて、同期から「顔が怖い」と言われたり。(笑)

ただ抜擢が続くと、自分は全力で走っているのに、技術面でも感情面でも成長が追いつかないことがあります。入団9年目にトップスターに就任。宝塚には「男役10年」という言葉があります。それより早い段階での就任ですから、さまざまな「声」も聞こえてきました。

そんな声を受けてどんなに落ち込んでも、次の日には舞台に立たなければならない。応援してくれるファンの方たちと、信頼してついてきてくれている組の仲間がいるから、途中で投げ出すことはできませんでした。

尊敬する先輩から、「もう辞めたいと思って辞めるのと、最後に心から感謝して卒業するのとでは、その後の心持ちは絶対に違うよ」と言っていただいたのも、大きな支えになりました。最終的には、トップとして走りきり、感謝しつつ退団することができて。