サウナ用語の「ととのう」が2021年流行語大賞にノミネートされるなど、近年のサウナブームにより銭湯が見直されています。大学院の建築学科を出て、設計事務所でキャリアを積んでいた塩谷歩波(えんや・ほなみ)さんは、26歳の時に銭湯への転職を決意。銭湯の番頭兼イラストレーターとして活躍したのち、現在はフリーの画家・文筆家として活動中です。たくさんの銭湯へ出かける塩谷さん、様々な出会いがある中でも忘れられない人がいるらしく――
忘れられない…銭湯に来た濃ゆいお客さん
銭湯のお客さんはなかなか濃ゆい人が多い。小杉湯の番台に座るようになってからも、何度もそう思った。
例えば、いつも夜に来てくれるおばあさんは、ちょっと腰が曲がっていて、笑顔がなんとも可愛い常連さんだ。最初は番台で挨拶するだけだったけど、今日は寒いねぇなんて他愛もない話をしていくうちに仲良くなって、たまに飴だったりチョコだったり、差し入れをしてくれるようになった。番台の仕事は体力勝負なので、そういう甘いモノは大歓迎だ。
そんなある日、おばあさんはいつにも増してピカピカの笑顔で透明なポリ袋を渡してきた。中を見ると、白いキノコがぎっしり。
「これ、今日採ってきたのよ! 食べてみて!」
どこで……? これ食べて良いキノコなんですか?
善意500%の笑顔を浮かべるおばあさんにそんなことを聞けるわけもなく、家に持ち帰ってビビリ倒しながらバターでソテーしてみたら大変美味しい椎茸でした。
ちなみに、そのおばあさんはいつも腰を曲げてトコトコ歩いているので、「行き帰りどうしてんのかな」と後ろ姿を追いかけたことがあるが、めちゃくちゃイカついスクーターに乗って颯爽と帰って行った。後日、喫茶店の前でタバコを吸っている姿も見かけた。想像の100倍逞しかった。
他にも、お風呂場で泥パックをめちゃくちゃ勧めてきて、なんだか悪くて断り続けていたら最終的に顔に塗りつけてきた押しの強いおばさんとか、食べかけのパンをくれるおばさんとか、パチンコで勝つと景品を差し入れてくれるおじさんとか、本当に色んな人がいる。
番台に座っていない時にも忘れられない出会いを紹介したい。