異音の正体は…

呆気に取られているうちに、汗をじっとりかいてきたのでサウナ室を後にして水風呂へ向かう。二人しか入れないコンパクトサイズの水風呂なのだが、体を折り曲げて入る感じが家風呂のようで落ち着く。

『湯あがりみたいに、ホッとして』(著:塩谷歩波/双葉社)

水風呂を出た後、露天スペースがないので、カランの前に座って目を瞑って浴室内の音に耳をそばだてる。

ゴボゴボというジェットバスの音、カーンという桶が落ちた音、ガラガラと開く扉の音、お喋りするお客さんの声……様々な音を聞いているうちにドクドク鳴っていた心臓がだんだん静かになり、深く呼吸をすると清らかな水が体に入ってくるような爽やかな気持ちになる。

「やっぱり銭湯はいいなあ……(ガッガッ)特にゴボゴボというお湯の音がたまらないんだよね……(ガッガッ)銭湯は最高なんだよなあ……(ガッガッガッ)」

ん? ガッガッ? 時折の荒々しい音に首をひねり、瞑っていた目を開いて音が聞こえてきた方に振り向いた。

さっきのおばさんが、アイスピックで氷を削っていた。

えっ何やってんの? 呆気にとられる私をよそに、おばさんは真剣な表情でアイスピックで氷の形を丸く整え、例のマグカップに入れた。

ガッガッガッと、アイスピックで氷を削る猛者(提供:『湯あがりみたいに、ホッとして』)

その上から500ミリペットボトルのマテ茶を注ぎ、何食わぬ顔でサウナに持って行った。なるほど! 確かに、氷を入れるならペットボトルじゃなくてマグカップがいいよね〜。

謎の納得感を得て、今日は色々お腹いっぱいだからもう帰るか……と、私は浴室を後にした。