そのタオルは…

まさかこんなところで、初対面の方に背中を洗ってもらえるなんて! 悪いなあと思いつつ、折角だからお願いします……! と自分のタオルを持っておばあさんの方に振り返ると、おばあさんは泡だらけのタオルを手に笑顔で立っていた。

え、そのタオルさっきご自身を洗ってたやつですよね??? え、待って、それ使うんですか? いやこのタオル使ってくだ……。

「背中洗ってあげるわね〜〜!」

ああああああああああああああああああああ!

私の声が届く間もなく、おばあさんの体を洗ったタオルで背中をごっしごしと洗われていた。叫びを呑み込み「良い力加減ですね!」と最高の笑顔を振りまいた。

ひとしきり背中を洗ってもらい、おばあさんが立ち去るのを笑顔で見送った後、「いやあ、こういう思いがけないことがあるのも最高だよな……!」と思いつつ、もう一度自分のタオルで背中を洗った。

 

※本稿は、『湯あがりみたいに、ホッとして』(双葉社)の一部を再編集したものです。


『湯あがりみたいに、ホッとして』(塩谷歩波/双葉社)

設計事務所から転職し、「番頭兼イラストレーター」として活躍した銭湯を退職、画家として独立した著者。100℃のサウナと0℃の水風呂を往復するように波瀾万丈な人生ではあるけれど、銭湯やサウナ、それを愛する人々に助けられたり、笑わされたりして、少しずつ自分らしくいられる場所を作っていく。銭湯の番頭業務の裏側や『銭湯図解』制作秘話、フィンランドサウナ旅など、濃厚エピソード満載! 読むとホッとして、ちょっとだけ前に進む気持ちになれる――。『銭湯図解』で話題沸騰の著者による、笑いあり涙ありのエッセイ集。