親切なおばあさん

地方の銭湯が好きだ。以前、交通新聞社の雑誌『旅の手帖』の「百年銭湯」という連載で、全国各地の創業百年以上の銭湯を巡ったのだが、どれも魅力的で本当に素晴らしかった。

毎日利用する常連さんがほとんどなので、各銭湯ならではのコミュニティが作り上げられていて、その人たちの輪にお邪魔しながら話を聞くのが楽しいのだ。常連さんの私物やプレゼントがロッカーに置かれていて、誰かの家に遊びに来たような雰囲気なのも面白い。早い時間に行くとお年寄りの方が多くて、私のような若僧を可愛がってくださることもある。

あの銭湯に行った時も、そんな風にとてもよくしてもらった。

北陸地方のとある銭湯。そこは、家族風呂を少し大きくしたような小さな浴室が可愛らしく、隅々まで掃除が行き届いていてとても心地よい銭湯だった。常連さんはみんな親切で、脱衣所で顔を合わせるなり「あら、どこから来たの〜」と声をかけてくれた。

「雑誌の取材で来ました〜。これからこの銭湯の絵を描くんですよ!」

「へえ〜〜。良いわねえ! 出来上がるの楽しみにしているわよ」朗らかに笑うおばあさんの笑顔に、取材疲れが溶かされる。ああ、こういう銭湯の会話ってなんでこんなに癒されるんだろう……。浴室に入っても、他のおばあさんが温かく出迎えてくれた。

「今日は寒いから、あったまらないとねえ」

「そうですね〜〜。今日はほんと冷えますね」

「ね〜〜。あっ、あなた、せっかくだから背中洗ってあげるわよ! ねっ!」