蒲田温泉の黒湯をぜひ図解で表現したいと、書籍化の取材に伺ったのは8月のど真ん中だったらしく――(提供:『湯あがりみたいに、ホッとして』より)
サウナ用語の「ととのう」が2021年流行語大賞にノミネートされるなど、近年のサウナブームにより銭湯が見直されています。大学院の建築学科を出て、設計事務所でキャリアを積んでいた塩谷歩波(えんや・ほなみ)さんは、26歳の時に銭湯への転職を決意。銭湯の番頭兼イラストレーターとして活躍したのち、現在はフリーの画家・文筆家として活動しています。銭湯の建物内部を建築の技法を使って描いた『銭湯図解』で注目され、その半生をモデルにしたドラマ『湯あがりスケッチ』が2022年に放送されました。『銭湯図解』執筆に際し、銭湯へ取材に行った先では様々な事件が起きたそうで――。

蒲田温泉でのハプニング

銭湯マニアなら皆知っていると思うが、大田区にある蒲田温泉のお湯は凄まじく黒い。黒湯の銭湯の中でもダントツに黒い。水面から3センチ下は何も見えないぐらい黒いので、測ろうとしても湯船の深さが分からんし、なんなら湯船の底で何かが泳いでいても分からないだろう。未知の生物カマッシーとかいたらめちゃくちゃ楽しいだろうなあ。

黒湯とは、その名の通りお湯が黒い温泉のことだ。地層中に蓄積された海藻や木の葉、火山灰が年月をかけて分解されたものが源泉に溶け出て黒く濁るそうだ。都内では大田区の銭湯の多くが黒湯で、保温・保湿効果があるとされているので「美肌の湯」と掲げているところもある。

蒲田温泉には温度が異なる黒湯の浴槽が2つあり、熱い方は指先をつけた瞬間「これ以上は無理」と体が悲鳴をあげているのを感じるほど熱い。

このまま浸からないのでは銭湯上級者(自称)の名が廃るとひと息で浸かったが、全身の皮膚に強烈な電気を流し込まれたようなビリビリ感が痛気持ちよくて、水風呂を挟みながら何度も浸かってしまった。

ちなみにその様子を見ていた常連らしいおばさんに「マジか」という目で見られた。なんでよ。