女湯側から友人の悲鳴が聞こえてきた
そんな蒲田温泉の黒湯をぜひ図解で表現したいと、書籍化の取材に伺ったのは8月のど真ん中。朝から雲ひとつない晴れ模様で、外にいるだけでコンクリートの地面から熱がじわじわ上がってきて頭がクラクラしてしまう暑さだった。
取材に合わせて早めに準備を進めてくださったようで湯船もバイブラもサウナもすぐに営業を始められる状態だ。ありがたい。とてもありがたいのだが、真夏の8月で準備万端の熱々の湯船とサウナ、そして窓がやや小さいこともあり、浴室全体が巨大なスチームサウナのようだった。
取材の手伝いにきた友人のカメラマンのグレーのTシャツがあっという間に黒く変色したのを見て「よし、秒で取材を終わらせよう!!」と私たちは決意を固めた。
私は実測を、友人は写真撮影を、互いにそれぞれの作業に専念して進めていく。だらだら垂れる汗、湿気で歪むメモ帳、熱気で火照る頬……数分おきに冷房が効いた脱衣所に逃げてイオンウォーターをガブ飲みするも、すぐにヘトヘトになってしまう。
「あれ? ここの浴槽って測ったっけ……?」「今レーザー測定器で見た数字なんだっけ」など判断力が随分落ちたところで事件が起きた。
うわーーー!!!!
女湯側から友人の悲鳴が聞こえてきた。どうした! 男湯を飛び出し浴室の扉をガラガラと開けると、黒湯の浴槽の前に立ち尽くす友人が絶望的な表情でこちらを見ていた。
「レンズフード落としちゃった……」
蒲田温泉の黒湯は凄まじく黒い。水面から3センチ下は何も見えないぐらい黒い。そんな黒湯にカメラの先端についている黒いレンズフードを落としてしまった。