2009年のRADWIMPS
さて、翌年の2009年になると軽音部の高校生にパンクスはすっかりいなくなっており、代わりに存在感を放っていたのは、さらりとした黒髪の内向的なロック少年たちだった。
前年のパンクスとかなり印象が違ったため、「君たちはメロコアとかはやらないの?」と聞いたら、ロック少年、「そういうのは去年までです」ときっぱり。聞けば、自分たちは退部してしまうような無鉄砲な先輩たちに反発し、破壊的でないかたちで軽音部を運営していくことに決めたのだという。
興味深いのは、このような態度変更が音楽性となってあらわれていることである。新世代のロック少年たちは、3ピースのパンクバンドではなく、RADWIMPSのような4〜5人編成のオルタナ系ロックバンドを志向していた。
つまり、時代はすでに邦ロックのほうへと傾いていたのだ。飲酒をして停学になるような破壊衝動ではなく、内向的で鬱屈した思いこそが軽音部の高校生によって歌われるべきものとなっていた。高音のきれいなヴォーカルとともに。
ライターの成松哲さんによるミニコミ誌『kids these days! Vol.1』は、多くの高校の文化祭に足を運び、各学校の軽音部ライヴのセットリストを順位にまとめた労作にして名著だが、それを読むと2011年の各文化祭の傾向が見えてくる。
そこでは、モンゴル800やザ・ブルーハーツといったメロコアやパンク系のバンドが上位にある一方で、ONE OK ROCKやRADWIMPSといった新世代バンドが台頭していることも確認できる。また、両者を橋渡しするようにELLEGARDENが上位につけているのも興味深い。
もちろん、2009年におけるメロコアから邦ロックへの転換は、僕が勝手に世代間の物語を仕立てているところもあるだろう(書いてあること自体はすべて実話だ)。成松さんの分析によれば、当時起こっていたのは、そのような音楽性の変化以上に「軽音部内アニソンブーム」だったという。だからこそ、2011年のコピーバンド第1位は、アニメ『銀魂』の主題歌を歌っていたDOESということになる。
いずれにせよ、通常語られるところの音楽史とはまったく異なる力学で、文化祭の選曲はおこなわれているのだ。