高3女子の初期衝動

さて、母校の軽音楽部がメロコアから邦ロックへの転換を見せていた2009年、僕はかけもちで神奈川県の私立高校にも非常勤講師として勤めていた。ただでさえ通勤時間が長いうえ、勉強に対するモチヴェーションが低い生徒も多く、けっこう苦労した講師2年目だったことを覚えている。

とはいえ、そのなかでも忘れがたい思い出というのはある。

ある午後の授業中、どうにも勉強に身が入らない高3のクラスで雑談をしていたときのこと。どのような流れでそういう話になったのか覚えていないが、内容は「昨日ブックオフに行ったときにさあ……」みたいなものだった気がする。

ある生徒に「ブックオフでなに買ったんですか⁉」と聞かれたので、「知らないかもしれないけど、おにんこっていうバンドのCDが安くあったから買った」と答えると、さっきまで退屈そうに突っ伏していた女子生徒はガバっと起きて言った。

「わたし、おにんこ知ってるよ!」

正直、彼女がおにんこ!というそれなりにマニアックなバンドを知っているとは思わなかったので、なにかと勘違いしているのだろうなと思った。しかし、もう少し話をしてみると、その女子生徒がたいへんな音楽マニアだったことが判明する。

というのも彼女、もともと戸川純さんの大ファンだそうで、最近は赤痢(!)なんかも聴いているとのこと。僕も彼女も学校でそんな話ができる機会があるなんて思っていなかったので、「赤痢なんて聴いてんの⁉ すごいな!」とか言い合っているころには、お互いにとてもテンションが上がってしまい、周囲のクラスメイトをすっかり置いてけぼりにしていたような気がする。

さらに話を聞いていると、彼女、自分も3ピースのバンドを組んでおり、円盤(高円寺にある有名な自主盤屋。現・黒猫)に自主制作のCD-Rを置いてもらっているということだった。

ということで、初期衝動としか言いようのない、行き場のない怒りと音楽の喜びがぐちゃぐちゃになった自主CD-Rを円盤に買いに行って、その後はしばらく愛聴していた。彼女はその少しあと、日本マドンナという女性3人組のパンクバンドのフロントマンとしてインディーズデビューすることになる。