ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「美容整形」について。整形のハードルが若者のあいだで下がり、他者に隠す必要がないと考えている人も多くなった現状をふまえ、スーさんが考えたこととはーー。(文=ジェーン・スー イラスト=川原瑞丸)

私が恐れていること

久しぶりの友人と、三人で食事をした夜のこと。席に着くなり、男友達は私に歯のことを尋ねてきた。

聞けば、彼は彼でずいぶん前に手術したインプラントに不具合が起き、鼻腔と口腔が繋がってしまったらしい。中年になれば誰にでも、歯の物語があるのかもしれない。

「うがいをすると鼻から水が出てくるんですよ」。ポテトサラダをつまみながら男友達はしんみりと言った。想像するとドリフのコントのようで、今度は私が口から水を噴き出しそうになる。やはりインプラントは人体にそれなりの負荷を掛ける手術なのだという結論に、歯抜け中年二人で至った。

女友達のほうは、咬筋ボトックスのことを尋ねてきた。そこから美容整形の話になり、「顔に糸を入れて皮膚を吊り上げるなんて、怖くてできない」と私が言った。

言いながら、自分でもおかしいと思った。インプラントでは頭蓋骨にドリルで穴を開けるのに、弛みを引き締めるために皮膚の下に糸を埋めるのは怖い? どう考えても怖いのは前者だ。私が恐れているのは、手術の規模や痛みではなく、それが人にバレることだ。