新入社員の"大人化"

職場環境の変化に加えて、若者側の変化に注目すると、入社前の社会的経験の量という点で新入社員が5年前・10年前等と比較して大きく変容していることが確認できた。その変容を"大人化"と書くと「最近の新入社員は未熟だ……」といった言説とは乖離していると感じられるかもしれないが、しかし確認できた事実は以下の通りである。

すなわち、かつて多数派だった入社前の社会的経験が「全くない」グループはすでに現代の新入社員においては比較的少数(4分の1程度)である。その経験内容も多様化しており、自らが向き合う若者について多彩であると実感している方も多いだろう。

筆者が行ったインタビューでも、「男性でコスメブランドと契約を結ぶなど10代からビジネスをしていた同期がいた。しかし、経験のあったマーケティングでもコスメでもない部署に配属され半年で転職した」といった話があり、少なくとも一部の新入社員はかつてのような"白紙の状態"ではなくなっている可能性が高い。

こうした新入社員に、一律のオンボーディング施策(新しく会社・組織に加わった人にいち早く環境に慣れてもらい、有用な人材に育成する取り組み)で良いのか、ゆるい職場を前提とし若者の多様性をふまえた育成の見直しが必要なのではないだろうか。

また、今回の検証からわかったさらに大きなポイントは、"大人化"した新入社員と、ある種の大人としての通過儀礼(イニシエーション)を通っていない新入社員が、混在しているということである。この混在した環境が状況を複雑にしている。つまり、ひとつの企業のなかに、職業人としての段階が全く異なる新入社員が交じりあっているのだ。

 

※本稿は、『ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


ゆるい職場――若者の不安の知られざる理由

「働きやすい会社」を、なぜ若者は辞めてしまうのか?
新時代の、若者・仕事・日本社会を紐解く――

「今の職場、“ゆるい”んです」「ここにいても、成長できるのか」。そんな不安をこぼす若者たちがいる。2010年代後半から進んだ職場運営法改革により、日本企業の労働環境は「働きやすい」ものへと変わりつつある。しかし一方で、若手社員の離職率はむしろ上がっており、当の若者たちからは、不安の声が聞かれるようになった――。本書では、企業や日本社会が抱えるこの課題と解決策について、データと実例を示しながら解説する。