「散り散りの時代」に突入した日本で、私たちはどんな心構えで過ごしていけばいいのでしょうか。弘兼さんの見解とは?(写真提供:PhotoAC)
『課長島耕作』シリーズや『黄昏流星群』などの作品で知られる漫画家・弘兼憲史さん。現在70代になった弘兼さんは「70歳からものびしろはある。セカンドキャリアをもっと自由に、楽に愉しもう」と提案しています。一方、コロナを経て「散り散りの時代」に突入した日本で、高齢者たちはどんな心構えで過ごしていけばいいのでしょうか。弘兼さんの見解とは?

江戸時代にあった絶妙なプライバシーの配慮

惜しまれつつ、若くして他界した江戸時代の風俗研究家、杉浦日向子(すぎうらひなこ)さんによると、江戸時代の下町は町人同士の絶妙なプライバシーの配慮があったそうです。

落語にしばしば登場するのが八っつぁん、熊さんですが、長屋の住まいを行き来するシーンが登場します。そんなときの決まり文句が、

「おい、熊さんいるかい」

「おお、八っつぁんかい。へえんなよ」

こうして八っつぁんを家に招き入れる熊さんですが、江戸庶民が肩を寄せ合って住んでいた長屋は、隣の部屋とは薄い壁で仕切られ、入り口の扉も蹴飛ばせば開いてしまうような代物でしたが、たとえ顔見知りであってもひと声かけて入るのが自然と身についた礼儀、マナーだったのでしょう。