今の社会は負の要素が再生産されている

ロシア侵攻に対して、英国が「国際法違反だ」といち早く反発したのも、人と人が契約するという考え方を打ち出した「マグナ・カルタ」(大憲章)を誇りとしてきた歴史を考えると納得がいきます。

『伝説の校長講話――渋幕・渋渋は何を大切にしているのか』(著:田村哲夫/聞き手:古沢由紀子/中央公論新社)

それぞれの個人が自分の考え方と判断に基づいて行動するというヨーロッパで生まれた思想は、自由と民主主義の社会を生み出す原動力になりました。自由は一人一人の能力を最大限に発揮させる効果がありますが、結果として貧困や格差など負の要素が再生産されているのが今の社会でもあります。

このような問題に対応し、的確な解決方法を見いだすことの難しさを我々も歴史の流れの中で実感しているところです。そうした中で、人間としての尊厳を認める基本的人権や自由を制限する専制国家を支持する動きが、現代社会の一部に起きていることを憂えます。

ウクライナにおけるロシアの行動も、地政学的な文化に対する考え方を一人一人の尊厳より優先させた結果起きたものではないかと私は考えています。