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母が認知症とは思いたくない 膠着状態を打開したのは特殊詐欺だった 医者だって不健康なことはある なぜ、母はお金にこだわったのか 見えない介護
専門家に聞いてみた
老人ホームの紹介事業を展開する「あいらいふ」の相談員、平田由紀子さんにうかがいます。

専門家に聞いてみた

平田由紀子さん

 もしかしたら親は認知症ではないかと思い悩んでいる人は多いと思います。親を「物忘れ外来」「メモリークリニック」などの認知症の病院に連れていくのはかなり苦労します。連れていく側もなかなか踏ん切りがつきません。どうしたらいいでしょうか。また、なんとか病院に行くと認知症の薬を処方されます。これを毎日決められた時刻に飲んでもらうのも大変です。同居家族も忘れることがあります。いわんやをや、一人暮らしの認知症の方は大丈夫なのでしょうか。

 親を物忘れ外来などに連れて行こうとするのは、「困ったこと」が生じているからだと思います。しかし、本人は物忘れ外来の受診を拒み、家族はますます困ってしまいます。そんな時、本人が一番聞いてくれるのは、かかりつけ医の言葉です。例えば、よく診てもらっている内科の先生に「ちょっと心配なところがあります。紹介状を書くから専門の病院に行ってみてはいかがでしょうか」と勧めてもらうとか。主治医に言われると、納得する可能性は高いと思います。その辺りは今、お医者様のほうも心得ています。

ただ、中には主治医に言われても「あの医者はやぶ医者だ」となる方もいます。その場合は、本人と家族が「困ったこと」を共有する形で促してみてはどうでしょうか。家族は「何回もいった」「それやめてよ」と言ってしまう状況に「困っている」。おそらく言われた方も、なぜ怒られたりするのか分からず「困っている」。そこで、「お互い困っているよね。みんなのために一緒に検査に行こう」と持ち掛けるのです。「私はボケていない」と反論してきたら、「まずはそれを証明しよう」と言うのも一つの方法です。

また、「困ったこと」の原因は、認知症ではなく精神的疾患あるいは脳梗塞の前段階ということもあり得ます。これも心配なので、認知症の検査に抵抗のある人に対しては、「高齢になると脳梗塞のリスクも高くなるから一度検査をしてもらおう」とまず脳に関する診療科の受診から始める手もあります。

親を認知症の検査に連れていくことを躊躇するのは普通です。理由は、「認めたくない」「周囲に知られたくない」という気持ちになる人が多いからです。そのような場合も一般的な脳の病院であれば、家族も行きやすいのではないでしょうか。

一番してはいけないのは、うそをついて連れていくことです。健康診断と偽って認知症の病院に連れていったとします。記憶力のテストなど内容は覚えていなくても、「(自分の意思に反して)ボケの医者に連れていかれた」ということだけが残り、不信感からその後病院に行かなくなったりします。「コロナの検査」と称して連れて行き、違うことがばれて、その後家族が勧めてもデイケアに行かなくなったというケースもありました。

服薬管理ができなくなることも大きな問題です。毎日の服薬について、一番のお勧めはお薬カレンダーです。曜日と朝昼夕寝る前に分かれているポケットに薬を入れておくものです。また、一人暮らしの親の場合、服薬したかどうか別居の家族には把握できないので、薬置き場をペット等にも利用されている見守りのカメラでウオッチしている方もいます。飲んでいない時には確認の電話をするそうです。見守りカメラを利用する場合は、生活全般を見張られるのは嫌がる人は多いので、薬置き場のモニタリングに留めた方が良いと思います。

加えて、医療保険や介護保険では、薬剤師による在宅訪問サービスがあります。在宅で療養している人で通院が困難な方のところを薬剤師が訪ね、処方医の指示に基づき、服薬指導・支援、服薬状況の確認などを行うものです。要介護認定を受けている人については、薬剤師がケアマネジャーや訪問看護師、ヘルパーなどへ情報提供し連携します。

さらに、設定した時刻に薬を出すロボットなどICTを利用した服薬支援ツールが進歩しています。設定した服薬時刻を家族の音声で知らせたり、服薬を家族に知らせる機能を備えたりしているものもあります。

(聞いて一言)
平田さんのお父様は自ら認知症外来に行かれ、セカンドオピニオンまで求められたとのことです。当時、平田さんが介護職をしていたため、いろいろな話を聞いて情報・知識が身についておられたからです。

現在、婦人公論.jpだけでなく様々なメディアが認知症について取り上げています。このような情報発信は「なんかおかしいから認知症の病院に行ってみよう」という意識を持ってもらい、病院に行くハードルを下げることにつながると思いました。

平田 由紀子
株式会社あいらいふ  https://i-life.net/
入居相談事業部に所属
船橋相談室 相談員
介護支援専門員・介護福祉士資格保有