風俗店通いは不貞とみなされるのか
次に「誰と」について考える。とりわけ、性的なサービスを行う風俗店通いを不貞とみなせるのかは気になる点であろう。
日本では、風俗店での「本番」すなわち性行為=セックスは禁止されている。風俗営業の業務サービスとして提供されているのは、厳密にはセックスとはいえない口淫や手淫である。
しかし、口淫や手淫であったとしても、「婚姻共同生活の平和」は侵害される危険性がある*2。そのため、夫が風俗営業で口淫や手淫のサービスを受けた場合、夫に対する妻の慰謝料請求(民法709条)は肯定される可能性がある。
では、夫が風俗営業で口淫や手淫のサービスを受けた場合、「配偶者に不貞な行為があった」(民法770条第1項第1号)といえるか。
ややこしい話だが、現在の実務上、風俗営業で口淫や手淫のサービスを受けたという事実だけでは、直ちに「配偶者に不貞な行為があった」とはいえず、離婚は認められないという見解が強い。
しかし、仮に風俗店で性行為がなされたとしたら、それは、業務サービス以外の自由意思に基づくものとみなされる可能性がある。
実際に、妻が風俗嬢を訴えた事例では、風俗店舗内で肉体関係をもった点については「婚姻共同生活の平和」を侵害しないが、風俗店外で行った性行為については「婚姻共同生活の平和」を侵害したと認めた3 * 。
すると、「どこで」という要素も絡んでくることがわかる。性行為がなかったとしても、会っている場所がラブホテルなどであれば、「婚姻共同生活の平和の維持」を侵害したとして慰謝料請求が認められることもある。
異性と2人きりでラブホテルに行ったが、マッサージしかしていない、という抗弁が認められなかった裁判例がある4 *。性行為の実際の有無は別にして、異性と2人きりで密室に入った時点で不貞行為と認定される場合もあるだろう。
ただし、より最近の裁判例では、ラブホテルで会っていたにもかかわらず、LINEの通信記録をもとに、性交渉がなかったとして不貞行為と認定されなかったものもある5* 。