現役最年長の曲師である玉川祐子さん(左)と、浪曲師・港家小そめさん(右)(撮影:大河内禎)
浪曲は、節と啖呵で物語を聞かせる浪曲師と、それを支える曲師(三味線奏者)との二人三脚で成り立つ芸。現役最年長の曲師である玉川祐子さんは、2022年に100歳を迎えた。近年は孫ほど歳の離れた浪曲師、港家小そめさんの相三味線を務めている。サービス精神旺盛でおしゃべりが大好きな師匠の自宅で、稽古前に師弟が語り合った(構成=山田真理 撮影=大河内禎)

<前編よりつづく

好きになったんだからしょうがない

小そめ 私が師匠のことをすごいと思うのは、どんなにつらくても芸を続けてこられたことです。浪曲を絶対にやめたくない。その「好き」のレベルがハンパじゃないなって思います。

祐子 3歳から歌手として舞台に立ってた一番下の息子が、小児がんになって。一度は曲師をやめたけど、曲師は数が足りないんだ。頼まれれば引き受けるし、そうすると娘の父親は、自分が廃業しているもんだから「三味線やめて家にいろ」ってまた殴る。

小そめ それで三味線持って、ひとりで家を出た。

祐子 子どもたちも大きくなってたから。ずっと殴られてばかりだった。やっちゃ場(青果市場)の喫茶店で朝4時から働いたよ。

小そめ 桃太郎師匠と会ったのは、1970年に木馬亭ができた、そのころですよね。

祐子 何十年ぶりかで再会して、三味線を弾いたね。桃太郎は一流の曲師に弾いてもらってた人だから、私の三味線じゃ歯がゆかっただろうけど。

小そめ 私は晩年の桃太郎師匠しか存じ上げないですけど、普段から無口な師匠でしたね。

祐子 優しい人だったね。手をあげられたことは一度もない。なにより芸が素晴らしかった。声がいいところへもってきて、節がいい。そこに惹かれちゃったんだね。そりゃあ悩みましたよ。お互いこれ(妻)とこれ(夫)がいたからさ。でも、好きになっちゃったんだからしょうがないでしょう(笑)。長く生きていれば、いろんなことがあります。