祐子 芸事にはキリがない。10の修業ができたと思って舞台へ上がっても、お客さんの前へ出たら8つがやっとだ。だから精一杯やって、それでもっと稽古して、お客さんが身を乗り出して聴いてくれる浪花節を続けたいね。
小そめ だけど師匠はサービス精神旺盛だから、弟子としては心配なことが多いですよ。寒いから、といくら言っても、帰るときはいつも見えなくなるまで見送ってくださるし、足腰が丈夫だからと、走ったりしかねないじゃないですか。
祐子 タッタタッタ歩くのは速いよ。ごはんも三度三度ちゃんと食べてるし、作りすぎたら、よそにおすそわけすればいいし。
小そめ 師匠がしっかりしてらっしゃる分、よけいに、師匠が100歳だということを認識しなきゃいけない、と常々自分に言い聞かせています。コロナで舞台を休んでいただいたときも、「なんで出してくれないんだ」と怒るから、お手紙いっぱい書いて説明したこともありましたよね。(笑)
祐子 恥を言うようだけど、70歳くらいから耳も補聴器がなきゃ聞こえないし、右の目はまったく見えない。いろいろ不自由をかけるけど、あんたは小柳さんが残してくれた、お金に代えがたい宝物ですよ。
小そめ そんな、大げさな。
祐子 まあ、私はそれこそあと何日かしか生きないけど、それでも生きている間はあんたの三味線弾かなきゃ。だからなんとかうまく弾いてやろうって気持ちでやりますよ。
小そめ 私も、師匠の三味線が生きる浪曲ができるよう、精進します。それが課題。師匠に「今日はよかった」と思ってもらえる一席をやりたいです。