「物語に入り込む三味線という意味では、祐子師匠と豊子師匠がダントツだなあ、と思います。」(小そめさん)

師匠の三味線が生きる浪曲を

小そめ 昨年、師匠が浪曲師として語られた『越の海勇蔵』は、桃太郎師匠の十八番でした。そばで聴いていたとはいえ、セリフも節回しも全部覚えているのが、すごいなあと思って。

祐子 普通のことはポイポイ忘れちゃうんだけど、浪曲だけは頭に入っているんだね。眠れないときも、浪曲を3つくらいやると、いつのまにか寝てる。(笑)

小そめ 節といい、間といい、うまく言えないんですけど、いまの浪曲師にはとても真似ができないと思いました。浪曲そのものが、師匠の体に入っているというか。

祐子 あと三席くらいは桃太郎のネタをできるけど、もう声が出ないからねえ。ちょっとくらい一所懸命やったって、ばあさんは、ばあさんだ。(笑)

小そめ 10代で曲師に転向されたけど、100歳で浪曲師として高座を務めたんだから、夢を叶えられたなあと思います。

祐子 心ん中じゃ、ずっと浪曲師になりたかったんだ。それはねえ、涙が出るほど嬉しかったですよ。

小そめ 浪曲は三味線が常に鳴っているものですし、浪曲師だけでは成り立たない芸。一緒にちんどん屋をやっている私の夫は、いま沢村豊子師匠の弟子として曲師をしていて、祐子師匠にご一緒いただけない舞台などで弾いてもらっていますし、ほかにもたくさん曲師の方はいらっしゃいますが、物語に入り込む三味線という意味では、祐子師匠と豊子師匠がダントツだなあ、と思います。悲しい場面では、浪曲師と同じ気持ちで三味線や掛け声が泣いてくださっていて。