40代からちりめん細工の教室を主宰

「最初は針なんて持ち込んだら怒られるかもと心配したのですけど、看護師さんも『今日は何ができるんですか』と楽しみにしてくださって。うさぎのお雛様をいっぱい作って、退院の時にナースステーションへプレゼントしましたよ」

長い闘病生活で親しくなった患者さんに教えたことをきっかけに、40代から自宅近くでちりめん細工の教室を開くようになる。 

「ある日、生徒さんが稲取の第1回『雛のつるし飾りまつり』に出かけて、『素晴らしかったからぜひ先生もいらしたら』と勧めてくれたのです」

出かけてみると、目の前に下がる無数の雛飾り。一つ一つに由来のある細工物の愛らしさに魅了された。

【男の子のつるし飾り】柏餅や鯉のぼりといった、端午の節句にちなんだモチーフを。桃太郎と三匹のお供も飾られる(撮影◎大河内禎)

「何よりもあの色合いですね。雛まつりは、寒い中にやっと春めいたきざしが出てくる頃ではないですか。まだ寒々しい景色の中に、つるし飾りの赤やピンクが目に入ると心がぽっと温かくなる。『ああ、今年も春が来たなぁ』ってウキウキする気持ちになれるでしょう」

さっそく自分でも作り始めたという矢島さん。その後、がん治療で5ヵ月入院している間にベッドの上で作りためた作品が、2007年に稲取の「第1回雛のつるし飾りコンテスト」で入賞、13年には同コンテストでグランプリを獲得。つるし飾り作家としての活動を本格化させる。

【花水木の飾り(左)】ハンガーのような木製のつるし棒を使うことで、花の表情が際立つ。古布を染めた淡い色が美しい
【ハイビスカスと槿(むくげ)のつるし飾り(右)】赤は「勇敢」、黄色は「輝き」という花言葉があるハイビスカス。小ぶりな槿と組み合わせることで華やかに(撮影◎大河内禎)