周囲を元気にする太陽のような明るさ
夢乃さんが舞台袖に立っていると、下級生が不意に歩み寄って来ることがあったという。少し言葉を交わしてしばらくすると「ああ! 元気が出ました!」とお礼を言って去っていく。
「なに!? 私、パワースポットか?」と思ったというが、まさにその通りだったのだ。彼女が振りまく太陽のような明るさは、周囲を元気にして、次第に雪組の雰囲気を変えていった。
雪組の男役が夢乃さんから影響を受けたことのひとつが、公演プログラムに掲載される生徒のスチール写真だ。顔の角度や手のポーズなどで個性を出す人がいるが、夢乃さんの場合、斜めの角度から勢いをつけて大胆にフレームインする。その撮り方に憧れた下級生がコツを聞いて真似するほど、格好良かった。
「普通じゃ、面白くないもん。星組の組長さんだった英真(えま)なおきさんの撮り方に、私も憧れてたんだ」
英真さんは、役の雰囲気によってあえて視線を外したり、笑顔でも真顔でもない、一瞬で目を引く表情を作られたりしていた。それを見ていた夢乃さんは、撮影の前に自宅でポーズの練習を繰り返し、独自の写り方を研究したという。
「本当にやりたかったのは、3Dの写真。写真から飛び出したかったの。そうすれば公演プログラム、もっと売れると思わない?」
3Dではなくても、夢乃さんはいつも写真から飛び出して見えましたよ。そう伝えると、彼女は笑って、伝説のポーズを再現してくれた。
※本稿は、『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(著:早花 まこ/新潮社)
宝塚という夢の世界と、その後の人生。
元宝塚雪組の著者が徹底取材、涙と希望のノンフィクション!
早霧せいな、仙名彩世、香綾しずる、鳳真由、風馬翔、美城れん、煌月爽矢、夢乃聖夏、咲妃みゆ。トップスターから専科生まで、9名の現役当時の喜びと葛藤を、同じ時代に切磋琢磨した著者だからこそ聞き出せた裏話とともに描き出す。