雪組のもったいないところ

「双曲線上のカルテ」のお稽古場でのことだった。夢乃さんが真ん中で踊るシーンで、大きな歩幅で動く彼女に、誰も合わせてくれない。しっかりついて来てと伝えると、「端の人の位置がずれてしまいます」という返答。

『すみれの花、また咲く頃――タカラジェンヌのセカンドキャリア』(著:早花 まこ/新潮社)

「先生の指示を守るのも、確かに大事。でも、お客様に楽しんでもらうために『まずは大きく動く』、そして『真ん中の人に喰らいついていく』。そういう根本的な気迫が足りないと思ったんだよね」

「私なんてさ……」と、ある思い出を語ってくれた。星組時代に「長崎しぐれ坂」の蛇踊りのシーンで、下級生だった彼女は蛇の尻尾を持つ係だった。ダイナミックに動いたあとの、曲の最後の決めポーズでは、幕の中にすっかり入ってしまっていたという。

「でもそのままやったし、誰も気にしてなかったし。蛇が格好良けりゃ、私なんて幕の中で良かったのよ」

笑い話はさておき、夢乃さんは雪組の生徒に対して、もっと積極的に舞台に立ってほしいと感じたのだ。