「アジール」とは何か

土地を支配する権力が未熟であるとき、支配者の力が及ばない「不入の地」はたくさんありました。ですが、こうした現地の権力が成長していくと、次第に「不入の地」は少なくなっていきました。

なお、武家権力の浸食の対象になった土地は、たとえば神社・仏閣などの宗教的な聖域の要素を持つ場所や、市場など複数の権力が入り混じる交易場所などでした。まさに今回のドラマで登場した本證寺がこれに該当するでしょう。

こうした土地のことを、歴史研究では「アジール」と呼びます。

最初にアジール研究を始めたのは、皇国史観の理論的指導者、平泉澄先生でした。一方、戦後にとても大切な研究をされたのが、網野善彦先生です。

アジール内で人間は、本来の善良な性格を発揮し、自由で平和な生活を営んだ。だが、戦国大名の権力がアジールをどんどん否定していった、と網野先生は説きました。

この解釈が正しいとすると、当時の庶民は自由と平和を守るために、戦国大名の強大な武力と命がけで戦ったことになります。