網野理論に影響を受けて
ぼくは大学に入学した時に、網野先生の『無縁・公界・楽-日本中世の自由と平和-』(1978年、平凡社)を読み、歴史研究とはこういうものか、とびっくりしました。というのも、それまでの自分は「義経の鵯越の逆落とし」とか、「信玄と謙信の一騎打ち」とか、名シーンあっての日本史のほうに、夢中だったから。
それでも周囲の学友ほどは、感嘆できませんでした。
庶民ってそんなに強いのかな。戦国大名の権力は、いろいろなものを奪っていっただろうけれど、庶民の生活を守る、という要素ももっていたんじゃないのかな。だからこそ武田信玄や上杉謙信は、今でも地元の英雄なのだろう、などと考えていました。
しかし、今振り返れば、網野理論は、思考へ確実に影響を与えていたのだと思います。というのも、卒業論文で高野山領荘園を題材にしたぼくは、当時の表現で一味和合、いわば「仏の前での平等」を意識するようになっていたのです。