こんな私でよかったらいつでも

「きっとたくさんお考えになっているのだと思うのですが、治療をして効果のあった人、なかった人、自然療法で治った人、治らなかった人、どれも偏りなくお知りになるのがいいと思います。このようなときにも中庸って大切だと思うの。身近な方々の情報は一つの経験で語られます。それは大切な情報ですが、あくまで一人の情報です。現代医学は母数が大きいですからデータもしっかりしています。もう少し広い範囲で考えることもあっていいと思います」

希林さんは深くうなずいて、「わかりました。バランスね。どれを選ぶにしても一長一短があるということだね」と言いました。

数日後、ご本人から連絡がありました。

「季世恵さん、ときどき話を聞いてちょうだい。私が私であるためにあなたがいたらいいなと思う」

私は「はい、こんな私でよかったらいつでも」と答えたのです。

※本稿は、『エールは消えない-いのちをめぐる5つの物語』(婦人之友社)の一部を再編集したものです。


エールは消えない-いのちをめぐる5つの物語』(著:志村季世恵/婦人之友社)

「人がこの世を去ってからも、応援(エール)の思いはずっと生き残る。決して消えたりしない。まるでお守りみたいに」。

本書は、著者が見送った87歳の母のこと、最期を共に過ごした樹木希林さんのこと、自殺した娘の子どもを育てたお母さん、両親をなくし伯父伯母に引き取られた姉妹と、見守るおばあちゃん、子育て中の盲目のお母さんなど、5つの多様な家族の物語と、めぐるいのちを描いた珠玉のエッセイ集です。
巻末には、内田也哉子さんとの対談「母をおくる」も収録。