保守論壇は「老人ホーム」
私が保守論壇に入って衝撃を受けたのは、この界隈の年齢層の高さであった。
私は漠然と保守界隈や保守論壇というのは、三島由紀夫の「楯の会」みたいな雰囲気のところだと思っていた。
その思想の正当性はともかく、血気盛んな青年層が国体や国防や時局について、酒とたばこを嗜(たしな)みながら侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わしている――、そんな雰囲気だと思っていた。
私の中の政治的右翼のイメージというのは、この時勝手に何の根拠もなく、「燃え盛る青年の、かつマイノリティにはせよ滾(たぎ)る愛国心を持った青年たちの居場所」だと思っていた。ところが現実の保守界隈は、一言でいえば老人ホームだった。
保守系言論人は完全に硬直化した階級ピラミッドを形成し、70・80代を超えた大学の名誉教授などを頂点として、60代以上が概ね第一線、50代で第二線、そのあとに40代が「気鋭」「若手」として続き、30代はまずほとんど居らず、居ても30代前半ではなく後半であってその役割は後方部隊で、20代はほぼ絶無だった。
では受け手、彼ら保守系言論人の言説を受け取る視聴者や読者層というのはどうかというと、全く同じ構図かさらに高齢化が進んでおり、50代で「若手」という感じで、ほとんどが定年で会社をリタイアしたり、自営業者であってもその経営の一線からは退いて事業を部下に任せ、自身は経営を総攬(そうらん)するだけで暇と時間をもてあそぶ60代以上の高齢者の集積体であった。
まさにシニア右翼の世界がそこにあったのである。
※本稿は、『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(著:古谷経衡/中央公論新社)
久しぶりに実家に帰ると、穏健だった親が急に政治に目覚め、YouTubeで右傾的番組の視聴者になり、保守系論壇誌の定期購読者になっていた――。こんな事例があなたの隣りで起きているかもしれない。
導火線に一気に火を付けたのは、ネット動画という一撃である。シニア層はネットへの接触歴がこれまで未熟だったことから、リテラシーがきわめて低く、デマや陰謀論に騙されやすい。そんな実態を近年のネット技術史から読み解く。