そこで、ミカミさんにはさっそく、「ミニメンタルステート検査(MMSE検査)」を受けてもらいました。これは、広く流布している認知症の検査です。

検査では、認知症になると低下する記憶力、計算力、言語力、見当識(現在の日時や、自分がどこにいるかなどを理解する能力)の程度を、11の質問に答えてもらうことでチェックします。テレビの情報番組で取り上げられることも多いので、最近ではみなさん、このテストのことをよく知っているようです。

おそらく、ミカミさんもご存じだったんでしょう。意気込みはかなりのもので、「自分が認知症ではないと証明してほしい」という気持ちが、ひしひしと伝わってきます。

「ではまず、100から7を引いた数を言ってください」

私が聞くと、握りしめたこぶしにグッと力を入れて、間髪をいれずに「93!」と答えます。

「では、そこからまた7を引くといくつですか?」

「…………86!」とミカミさん。

このやりとりを5回繰り返すのですが、認知症を発症すると、5回連続で正解するのは難しくなります。しかし、ミカミさんは無事クリア。続く質問にもハキハキと答え、30点満点中28点という高得点を叩き出しました。かたわらで見ていた娘さんは、「いつもはこんなにシャッキリしとらんのに……」と苦笑いしています。

こんなふうに、ご家族が「最近、うちの親は何かおかしい」と思っても、ミニメンタルステート検査を難なくクリアしてしまう方もいます。

その場合は、脳の前頭葉機能をチェックする「FAB検査」も受けてもらいます。やや難しい分、いち早く認知症の気配がわかる検査です。

これらの検査結果と、CTの脳画像を照らし合わせて、私が下した診断は「早期認知障害」でした。