シノザキさんの奥さんには、ご主人の「ちょっと変」を、「認知症や、脳の他の問題のせいかもしれない」と疑える知識がありました。(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

待つことが難しくなってくる

シノザキさんは70代の男性で、以前は農協の職員だった方です。

少し前にMCIの診断となり、現在は経過観察で通院されています。

実は、シノザキさんのようにMCIの段階で来院される患者さんは、とても少ないのが現状です。

というのも、先ほどもお伝えしたように、この段階の患者さんは、日常生活は問題なく送れます。そのせいでうっすらと表れている認知症の「前ぶれ」に、ご家族はたいてい気づきません。

そうした前ぶれのひとつが、例えば、もの忘れです。

ものの名前を忘れる、会話の最中に何を話していたか忘れる、買い物に行ったのに何を買うのかを忘れてそのまま帰ってくる。そんなことが少しずつ増えてくる。

あるいは、ものの置き場所やしまい場所をやたらと忘れてしまう。メガネをどこかに置き忘れてしょっちゅう探していたり、いつもはタンスの引き出しにしまう洗濯物を押し入れに戻してみたり……。

ミカミさんの「冷蔵庫に入れ歯」も、もの忘れの延長で起こったことだと思います。

こうしたことをまとめてみると、明らかにおかしいわけですが、そのうちのひとつ、ふたつが、ちょくちょく起こるだけなら、ほとんどの人は「まぁ、ちょっと変だけど、そういうこともあるかな」と思う程度ではないでしょうか。

だから、見逃されるのが普通です。