早期認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)とは、認知症の一歩手前のこと。日常生活に支障が出るほどではないけれど、認知機能が低下している状態のことです。

MCIの約4割の人はこの状態でとどまりますが、放っておくと5年以内にだいたい5割が認知症に進むという報告もあります。このことから、MCIの方のことを「認知症予備軍」と呼ぶこともあります。

65歳以上のMCIの方の数は、日本では約400万人。実に6人に1人という高い割合です。ただ、私が診察している印象では、もっとずっと多い気がします。

それくらいMCIは、高齢者にとって身近な存在なのです。

このMCIの患者さんの特徴をひと言で言えば、「ちょっと変」。

「すごく変」ではないところがポイントです。

患者さんはこれまでどおり家事や仕事はこなせますし、難しい本や新聞を読むこともできます。慣れている人ならパソコンやスマホの操作もお手のものでしょう。

でも、家族からすると、「あれ?」ということが増えてくる。

ミカミさんのように、冷蔵庫や電子レンジに意外なものを放り込んで忘れてしまうのも、そんな「あれ?」のひとつです。

そして、のちに多くのご家族が、「なぜ、あのとき親の異変に気づかなかったのか……」と悔やむタイミング。それが、このMCIの時期です。

なぜなら、認知症は今のところ治らない病ですが、MCIの段階で薬物治療や脳リハビリを行えば、認知症へ進むのを止められることがあるからです。

『ボケ日和―わが家に認知症がやって来た!どうする?どうなる?』(著:長谷川嘉哉/かんき出版)