「そろそろ自宅での介護は限界だと思いますよ。お母さんを施設へ預けることも考えてみませんか?」
私は、娘さんに提案しました。
「でも……」と娘さんはためらいます。
「うちは、父が早くに亡くなったので、母は女手ひとつで私を育ててくれたんです。だから母のことは、できるだけ長くうちで看たくて……」
親孝行をしたいがために、なかなか手離せないというわけです。
「だけど、あなたはもう十分に頑張ってますよ。それより、健康だった頃のお母さんが今のあなたを見たら、きっとすごく心配するんじゃないかな?」
私は娘さんにそうお伝えしましたが……。
娘さんは、やっぱり大切なお母さんの顔を見ると、どうしても施設に預けるのがためらわれるのだと言います。
こういうときはまず、各ご家庭の「介護力」について考えてもらいます。
いつまで患者さんを自宅で看られるかは、介護力にかかっているからです。
介護力の判断基準はいくつかありますが、もっとも重要なのが「介護者の人数」です。
介護者が多ければ介護力は高くなり、少なければ介護力は低くなります。
中でも介護力が高いのが、仕事をしていない配偶者さんがいて、さらに同居もしくは近居に介護を手伝える娘さんが複数いるご家庭です。
こうしたお宅では、主介護者である配偶者さんを、娘さんたちがこまめに休ませながら、実にうまく介護をこなします。積極的に関われる人数が多いので、比較的長く家で看ることが可能です。
ただし、お子さんが複数いても、息子さんだと、あまりアテになりません。息子さんたちの多くは働き盛りで家にいないからです。