入所の決断をするのは誰?
ところで、患者さんの施設入居を最終的に決めるのは、家族の中の誰なのでしょう?
本来であれば、もっとも介護に携わっている方が決めるべきだと、私は思います。
しかし実際のところ、決定権を握るのは、配偶者さんか、面倒を看ている実子さんです。
当然といえば当然なのですが、問題は立場的に文句も言えずに介護生活に耐えているお嫁さんに決定権がないことです。
ナカニシさんのお宅の家族構成は、認知症のナカニシさん(80代・女性)、同居の息子さん、そのお嫁さん、小学生のお孫さん2人、計5人です。
息子さんは昼間仕事があるので、ナカニシさんのお世話は、ほとんどお嫁さんが一人でしています。
週に4~5日はデイサービスを利用しているとはいえ、介護者が一人しかいない状態ですから、お嫁さんはいっぱいいっぱいです。まだ手がかかる小学生のお子さんが2人いることもあり、介護負担はとうに限界を超えています。最近はナカニシさんが失禁することも増えてきて、精神的な負担もさらに重くなっています。
「そろそろおばあちゃんが入所できそうな高齢者施設を探しましょうか? 奥さんはもう十分やってるし、このままじゃ倒れちゃうからね」
診察室で私がそう言うと、ホッとしたのかお嫁さんはポロポロと涙をこぼします。
ところが、久しぶりに一緒に診察に付き添ってきた息子さんは、
「いえいえ、大丈夫です。うちの嫁は大げさなんですよ」
と、どういうわけか笑っています。
「うちの母だって、子どもを育てながら、祖父母の介護をしとったんです。ほやで、こいつにだってできるやらぁ?」
続けて息子さんが言いました。