「振り返ると、言葉を使う楽しさを覚えたのはこの仕事を始めてから。一方で、知れば知るほど言葉で気持ちを伝えることの難しさや奥深さも感じるんです」(撮影:小林ばく)
2018年、ドラマ『中学聖日記』で俳優・岡田健史として鮮烈なデビューを果たした水上恒司さん。22年9月、所属事務所を退所し、本名での芸能活動を開始した。2023年度後期 連続テレビ小説『ブギウギ』では、ヒロイン・花田鈴子の最愛の人として、村山愛助を演じることが発表された。活動の再開にあたり、新たに生まれた思いとは――(撮影=小林ばく 構成=上田恵子)

芝居の魅力はうまく言語化できない

2022年1月のドラマに出演後、9ヵ月ほどお仕事をお休みしていたのですが、これといって特別なことはせずに過ごしていました。本を読んだり絵を描いたり。

あとは狩猟免許を取ったくらいでしょうか。マタギの歴史や文化に興味があって、理解するためには免許を取るのが近道だと思ったんです。見出しになるようなものがなくて、すみません。(笑)

そういう時間を経てわかったのは、一見無駄なことのようでも、意味のないものは一つもないということ。直接仕事に結びつかなくても、何ごとも自分の蓄えになっていると気づきましたし、今まで以上に俳優の仕事に価値を見出せていると思います。

 

――そもそも水上さんはなぜ役者の道に進んだのか。小学2年から高校3年まで野球に打ち込んでいた彼に転機が訪れたのは、野球部を引退した夏。演劇部の顧問の先生から助っ人を頼まれ、演劇の大会に出場することに。その舞台で「役者になりたい」という強い思いが芽生えたという。

 

正直、芝居の何に魅力を感じたのか、自分でもよくわからないんです。これまで取材していただくなかで口にしてきたのは、「自分じゃない誰かになれる」という俗っぽいことだったのですが、本当のところはうまく言語化できなくて。

なぜ野球をずっと続けていたんだろうと考えても、「好きだから」という単純な理由しか出てこないのと同じ感覚です。

そういえば昨年の夏、小中学校時代の友だちが家に泊まりに来たとき、「おまえ、しゃべれるようになったなあ」と言われて。以前の僕は、自分で思う以上に話し下手だったようです。(笑)

振り返ると、言葉を使う楽しさを覚えたのはこの仕事を始めてから。一方で、知れば知るほど言葉で気持ちを伝えることの難しさや奥深さも感じるんです。それも芝居の魅力の一つだと思います。