「孤独」から「共生」へ
コンセプトができた。次は選曲である。
「明日へのアンサンブル」に続き、今回も曲目はすべて筆者が選ばせていただいた。奏者の皆様の寛大さに、改めて感謝である。
まず決めたのは、コンサートは「孤独」から始まり、徐々に人数が増えて、後半に15人全員のアンサンブルになる、ということだった。文字通り、「孤独」から「共生」へ、という流れそのものを生み出す。
では、「共生」というコンセプトを際立たせる、この15人のアンサンブルでしか聴けない曲とは何なのか。
悩みに悩み、ようやくたどり着いた曲がある。
それが、マーラーの交響曲第6番イ短調『悲劇的』から「アンダンテ」だった。
マーラー自身、仕事にも脂が乗り、結婚生活も一番幸福だったとされる時代になぜか書かれていて、のちの第一子の死や本人の心臓病といった悲劇の予兆とも思える曲である。この「アンダンテ」は、悲しみや切なさ、祈りが同居していて、本当に美しい。幸せと悲しみは背中合わせであり、辛さや苦しみを決して忘れず、それでも前を向いて進まねばならない、とも感じる曲の佇まいは、「共生」への希求を示してくれるはずである。
だが。この曲を矢部に告げたときの反応は、芳しくなかった。電話口の向こうで、矢部は「うーん・・・」と言いながら押し黙る。そして「うーん。いま、頭の中でアンダンテを鳴らしているんですが・・・やっぱりどうしても15人だけの響きがしてこないんですよ」と言うのだった。原曲の、100人以上の大編成で演奏されるイメージが失われるのではと心配したのも無理はない。なにより、難しい曲なのだ。
篠崎の反応も似たようなものだった。
しかし、都響の首席オーボエ奏者・広田智之からのリアクションは、まったく違っていた。
「すごい!!それやりたいです!!」
興奮気味に賛同の声をあげてくれた。
「孤独」から「共生」へ。悲しみを乗り越え、一人一人がつながって、次へ進んでいく。コンサートのコンセプトを表すのに、この曲は絶対に必要だ、よくぞこの曲にたどり着いた、と言ってくれたのだった。
また、編曲を担当する山下康介も、「あれだけのコンマス二人が躊躇するくらいだから、逆に挑戦しがいがある、ということですよ。やりましょう」と背中を押してくれた。
数日後、広田から、矢部を説得しておいた、大丈夫、との連絡が入った。
矢部も、できるかぎりのことはする、と言ってくれた。
こうして15人による「アンダンテ」にチャレンジすることになったのだった。