家族や愛を大切にする人々だったに違いない

ロベール・リッチは世界的な名香 “L’air du temps”を開発する位だから、嗅覚も敏感で、繊細。自身を晒すことを好まなかったかもしれない。

こうした少し「スノッブ」な人々は、あくまで「経営側」の人間。富を持つ人々は、自分の顔を晒すことを好まないものだ。下心を持つ人々にまとわりつかれるのは、誰でも避けたい。政治家や俳優のように顔を知られる必要がないのなら、「ANONYMOUS(匿名の、顔を知られない)」でいた方が、プライバシーは守られる。

「匿名性」とは、家族やプライバシーを大切にすることを意味するのだと思う。顔を隠すことを好んだ彼らは、家族や愛を大切にする人々だったに違いない。彼らの美学が底に流れるからこそ、アルクールの写真は人生で最も大切な「家族」の記録のために選ばれるのだろう。

左:アラン・ドロンと娘 右:カトリーヌ・ドヌーヴと息子 ©️Studio Harcourt Paris

アルクールで撮影される写真の大半は、家族の記録なのだそうだ。これはわたしには少し意外なことだったが、自分を素敵にみせることより、人々は人生をかけて作りあげる「家族」に最大の価値を置く、と考えれば納得がいく。つまりコゼットは自分よりも愛と家族を、ジャックを大切に思っていた。だから、大切な人を守るために私的な記録を消してしまったーーーー。そういうことだと思う。

二人の間には真剣な愛があったと信じたい、真実の愛によってつくられたスタジオで、大切な写真を撮影したいと切望するからである。

次回は「写真の違い」から学ぶ、日本とフランスの愛の文化の違いについて。日本の演歌はいつも女が耐え忍び、フランスのシャンソンではいつも男が「捨てないで」と女に縋りつく。その違いを考察したい。

★Studio Harcourt Paris
Business Development Manager 坂本京子
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