起きた異変

その後、福岡にたどりついたのちにはささやかな宴会を催した。

そして翌朝、父と従姉妹と、祖母を取り合うようにして食事を手伝っていた。

福岡に着いた夜に催した宴会にて。この時は祖母も元気だった(写真:著者)

私は船での一件をすっかり忘れていたように思う。

祖母は突然むせ始め、顔を歪めて「くるしぃ」と声を絞り出した。異変に気付いた父は「おっかあ、おっかあ」と声を荒げ、背中を叩き、口の中に手を突っ込むが、苦しそうな様子は変わらない。

父はすぐさま「救急車」と叫んだ。数分後、それまで穏やかで平和だったマンションの一室に救急隊員がなだれ込んできた。

処置がうまくいったのかどうか、分からない。

祖母は病院に運ばれ、危篤状態になった。

※本稿は、『The Last Years/最後の旅』の一部を再編集したものです。


The Last Years/最後の旅』(高重乃輔)

島の自然は強く、厳しく、優しい。祖父と祖母はそんな島の一部であるかのように、エネルギッシュでいつも自然体な人だった。二人はずっと島で生きていき、やがて亡くなれば、島の風や土になるものと思っていた。だから二人が、叔母の住む福岡で余生を過ごすと聞いた時は、驚き、そして、寂しく思った。祖父は九十四歳。身体は元気だったけれど、物忘れが多くなっていた。祖母は八十八歳。怪我が続いて、介護施設と病院とを出たり入ったりしていた。二人だけで島で暮らすのは、だんだん難しくなってきていた。でも、だからといって、晩年になってどうして島を出なくてはならないのか。二人は長い間、そこで暮らしてきたというのに。私は、島を離れることになった二人を、写真に残したいと思った。