一番複雑で巧妙でそして面白いのは繁殖のための時期

つつじの花を見てごらんなさい。花が横を向いているでしょう。そうなっているのは虫が入り易いためです。上側の花弁の中央に胡麻をまいたような印のあるのは「この下に蜜あり」という立札で、昆虫はこの札めがけて飛んで来ます。その時雄蕊の葯(やく)が昆虫の身体にこすりついて葯の孔(あな)の中から糸を引いたように花粉がこぼれ出ます。

このように植物の生活の中で一番複雑で巧妙でそして面白いのは繁殖のための時期であります。菊の花などは、貴女方はあの大きく咲きこぼれた大輪があれで一つの花だとお考えでしょうが、あのそりかえった一片一片がそれぞれ一つずつの花なのです。めいめいに雄蕊雌蕊を持った沢山の花が一本の茎の上に共同の生活を営んでいるのです。一匹の昆虫が飛んで来ると、沢山の花が一時に花粉のやり取りをすることが出来るので、殆(ほとん)ど無駄なく多くの花が受精し結実するのです。

こんな風に種子を作る設計が巧みに出来ている花を高等植物といい、日本の皇室の御紋章である菊の花や満州国の国花である蘭は(菊科中のフジバカマで世人が思っているような蘭科植物のランではありません)花の中での王者といわれるものです。

松や杉にも花は咲くのです。ただ松や杉の花粉は昆虫の助けをかりないで風に流れて他の花に到達します。それ故他の花の様に綺麗な色や匂いで花の存在を広告する必要がないのです。それで花は咲いても貴女方の目には殆どふれないのです。