島村さんは「利用者によって大いに賛否両論が分かれる」といいますが――(撮影:島村菜津/写真提供:光文社)
イタリア発、集落の空き家をホテルとして再生し、一帯で宿泊経営を行う分散型宿泊施設の考え方を指す「アルベルゴ・ディフーゾ」。ノンフィクション作家の島村菜津さんは、空き家問題の救世主になるといわれるその哲学と実践を、取材を通じて掘り下げてきました。煤だらけの壁、テレビも冷蔵庫も電話もない、インスタ映えとは無縁の料理。これらがなぜ人を魅了するのか? 島村さんは「利用者によって大いに賛否両論が分かれる」といいますが――。

賛否両論のアルベルゴ・ディフーゾ

アルベルゴ・ディフーゾはまだ圧倒的な少数派であるだけでなく、試行錯誤の只中にある。

2018年時点で、イタリアのホテル数は約3万3000軒、宿泊床数は約226万で全体の44%ほどを占める圧倒的多数派だ。

近年、増加傾向にあるアグリトゥリズモ(農家民宿)は約2万軒、宿泊床数は約27万で5%ほど、主に都市部の空き家対策として近年、急速に伸びたB&Bは、約3万5000軒、宿泊床数は約18万で4%ほどである。

これに対し、アルベルゴ・ディフーゾとして登録している宿は、500軒にも満たない。

そして現場の課題は、利用者によって大いに賛否両論が分かれるということだ。

たとえば、客にどのくらいかかわるのかも一つの選択である。

村の温かいおもてなし、とどの宿も謳ってはいるが、それは口で言うほど簡単ではない。

接客のセンスがよく、仕事ができる働き手に恵まれたならば幸いだが、いつもそうだとは限らない。

割り切ってプロの教育を受けた人を雇うのか、それとも、地元の若者や移住者が、接客を学ぶのか。

あるいは、古老たちのその地域らしいもてなしを模索するのか。しかしそうなると、サービスにはどうしても、少しばかり素人くさいところが見え隠れする。

たとえば、受付で推薦されたレストランに車で移動してみたら定休日で閉まっていたり、夕方、宿に着いてみると、受付に客が殺到し、荷物運びの指示をうっかり忘れられたり、といったことがしばしば起こる。

すると価格帯にもよるが、やっぱりがっかりする客はいる。