鍵をさしても扉が開かない
また、ある時には、こんな事件も起きた。
レストランで夕食を終えて部屋に戻ると、鍵をさしても扉が開かない。
後でわかったことには、古い木の扉を探し、大きな鉄の鍵と伝統的な木製の錠の再現にまでこだわったために起きた不具合だった。
その瞬間、かつて取材に同行したカメラマンのセリフをまざまざと思い出した。
「僕はこんなホテル、嫌だよ。昨日の晩、僕の部屋の扉が開かなくなって、大変だったんだ。丸いバスタブも使いにくいし、壁だって汚いし」と口を尖らせた。
同じ部屋だったのかもしれないが、宿泊施設としてはなかなかの失態である。
イタリア人が小柄だった時代の脚つき浴室をイメージして選んだフィリップ・スタルクの浴槽も仇(あだ)になっていた。
受付に連絡をすると、すぐに整備の担当と2人で駆けつけた。
半時間後、ようやく扉が開いた時には、2人の従業員がまるで日本人のように謝り続けるので、すっかり恐縮してしまった。