移転の一番の理由は、建物の老朽化。10坪程度の小さな店から始め、大通りから一歩裏に入った場所に移ったのが1986年。近年は雨漏りなどの問題が起きるようになりました。加えて環境の変化もあります。
76年のオープン時、表参道は静かな街で、イラストレーターの和田誠さんや宇野亞喜良さん、詩人で劇作家の寺山修司さんなど、本を通してしか存じ上げない方が歩いていたりして。「わっ、ここにしよう」と決めたんです。表参道のはずれで、夜ともなればあたりは真っ暗になるような住宅街でした。
月日とともに表参道の雰囲気も変わってきたし、そろそろお別れする時期かもしれない……。数年前からそんな考えが頭をよぎるように。
一度「やめる」か「移転」かの選択肢の間で、気持ちが揺れた瞬間がありました。ちょっと体調を崩したりして、過信していた健康への自信が薄れ、「そろそろかな」という気持ちが勝ったときもあったのです。
けれど、大阪店と合わせると約100名のスタッフがいます。親の介護をしながら働いている人や育児中の人も。みんなの人生を考えると、そう簡単にやめますとは言えませんし、なによりも、私自身がまだ続けたい、やり残したことがある、と感じて。そんなわけで、まずはいくつか物件を見て回ろうという気持ちになりました。