表参道店から運んできた木製のテーブル。「3世代で使ってくださっているお客さまもいて、ありがたいですね」と落合さん

記憶が何よりの財産

表参道の店は、長年かけてお客さまと関係を築いてきた大事な場所です。たとえば地下に行く階段は、改装の際、たまたま遊びに来ていた小さな男の子が歩幅を測らせてくれた。結果的に子どもにも高齢者にも優しい高さになりました。床のシミひとつにも思い出があるし、愛着もあります。

そういった「形あるもの」は手放したとしても、記憶は残る。大事なのはどんな人と出会い、どのようなコミュニケーションをしてきたか。そういった記憶さえあれば、形あるものに「未練はないなあ」と。

もちろん、表参道から持ってきたものもあります。四十数年前、「座り読み」のできる書店は珍しかった。私はどうしても椅子と大きなテーブルを置きたくて。多くの人から「やめたほうがいい」と言われました。本が汚れるからとか、いろいろな理由で。

立ち読みでさえ歓迎されなかった時代です。ましてや、絵本はあっという間に読み終えられます。座って読む場所なんてつくったら、本が売れなくなると、そう忠告してくれた人も。

でも実際は、そのテーブルに多くの親子が集まり、絵本と出会い、その後もずっとお客さまでいてくださった。この古びた半円形の傷だらけのテーブルは、クレヨンハウスの歴史の証。

吉祥寺店に来てくれた昔からのお客さまは、「わっ、このテーブル、表参道にあったものですよね」と喜んでくれます。いまでは親子3代にわたって使ってくださるテーブルになっていて、店がある限りテーブルも生き続けてくれます。

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