慣れ親しんだ食が消えることの意味

ところで、久留米の老舗パン屋『キムラヤ』さんについて。

こちらの「まるあじ」は久留米人のソウルフードと呼ばれ、創業91年を支える看板商品でありました。しかし2016年末、その『キムラヤ』さんが全店閉鎖という衝撃のニュースが流れ、「まるあじ」は他社に引き継がれるものの、『キムラヤ』さんとしての焼きたてパンは見納めということで、今回津福にある本店に足を運びました。

店内には「まるあじ」の売り場が広く取られ、今後姿を消す「ホットドッグ」も冷蔵庫一杯に並べられていました。店員さんが大きな声で焼き立てを告げ、愛おしそうにパンを並べる姿には胸がぎゅっと締め付けられ、何とも言えない淋しさに泣きそうになりました。

閉店したキムラヤの看板商品「まるあじ」。久留米人のソウルフードとも呼ばれていました(写真『ヒツジメシ』より)

小さい頃から慣れ親しんだ食が消えるというのは、それにまつわる思い出までも失くしてしまうようです。100年近くも久留米人の舌を楽しませて下さった『キムラヤ』さん、本当にありがとうございました。

※本稿は、『ヒツジメシ』(講談社)の一部を再編集したものです。


ヒツジメシ』(著:吉田羊/講談社)

2022年で俳優デビュー25周年を迎えた吉田 羊さんの初単行本! 2015年から『おとなの週末』で連載を続けた「ヒツジメシ」がついに1冊になりました。日々の食体験を通して、下積み時代から現在までを振り返ります。懐かしい思い出のお店、また、ふるさとや母の味、そして今気になる街や味をめぐりながら、仕事のこと、大好きな人や街のことなどを綴ります。吉田 羊さんの食の思い出を追体験しながら、ある時はほっこりしたり、ある時は「あるある」とうなずいたり……。また、女子が気になる美と健康などについても触れます。単なる美味の食レポにとどまらず、食体験を通して吉田 羊さんの姿が垣間見え、読み物としても楽しく、グルメガイドとしても役立つ1冊です。